Date:00/01/17

I N T E R V I E W : 音のある世界で
アウトドアで耳を澄ますわけ
Vol. 15  渡部純一郎さん
(マルチ・アクティビティーガイド)


渡部純一郎さんは、プロのアウトドア・ガイド。山・川・海、そして空まで幅広くカバーする、日本でも屈指のマルチ・アクティビティーガイドである。
テレビで放映された、関野吉晴氏の“人類400万年の旅・グレートジャーニー”で、どんな状況でも穏やかに微笑みながら、その旅をしっかりと支えている渡部さんの姿を見たことがある人も多いだろう。

サウンドエクスプローラの家族プロジェクト「サウンドバム」で、来月開催される音の旅“第二回アラスカ+メキシコ・バハ半島編”には、なんとその渡部さんがガイドとして付いてくれることになった!:-D
きっかけは、彼がシーカヤックでアラスカを旅しながら、クジラ達の歌声や、時には寝イビキを耳にして感激。その話を、あるバム関係者に語りあげたのがきっかけだ。

彼がこれまでに自然の中で聴いてきた音の話を、1999年末、仕事でネパールへ向かわれる直前にうかがうことができた。(ニシ)

── 渡部さんは、なにがきっかけでアウトドアへ出るようになったのですか?



渡部:もともとは、高校生の頃にはじめた岩登り(ロッククライミング)です。東京近郊の岩場や、北アルプスとか。もともと自然は大好きで、山へは出かけていましたが、岩に向かった理由は本能的です。僕の高校では岩登りが禁止されていたので、社会人の山岳会に参加しました。その頃は、未成年だとなかなか入れてくれなかったんですけど。

── アウトドアに出かけているうちに、ガイドの仕事に至ったのですか?

渡部:いや、自分で意識的に決めたんです。学校を出た後は、造園の仕事で働きながら、年に一ヶ月くらいヨセミテ国立公園に出かけたりしていました。しかし、パラグライダーやカヌーとか、やりたいことが増えてくると休暇では足りなくって(笑)。「もっと自然の中にいたい」と思った。そして、アウトドアのガイドの仕事をしていこう、と考えたんです。

── いまは一年のうち、どれくらい自然の中ですか?

渡部:ほとんど....、って言ってもいいくらいです。ついこないだまで一ヶ月ほどネパールにいたし、明後日からまた10日間ほどネパールへ行きます。日本からトレッキングに行く人のガイドです。

── とても忙しそうですが、マネージャーの方とか、いらっしゃるんですか?

渡部:いや、ぜんぶ自分でやっています。人に管理されないくらいが、ちょうどいいんです。だって、ビッチリ予定を入れられてしまったら、キツイじゃないですか(笑)。

── 僕はずっと、「旅は個人旅行がいちばん」と思っていたのですが、最近少し変わってきたんです。どんな人と一緒に行くかで、体験できる世界がまるで違ってくることが、だんだんわかってきた。

渡部:(微笑)

── 海外では、アウトドアへ出かける際にガイドの方を雇うのはごくあたり前のことのようですが、日本人の旅はまだ、“個人旅行かあるいは団体旅行”という感じで、バリエーションがありませんね。

渡部:海でダイビングをする時には、どんな人も必ずガイドを付けますよね。初心者でも上級者でも、短時間で効率よくいい体験がしたいと思ったら、ガイドの人と一緒に入った方がいいです。
僕がガイドをする時、いちばん気に掛けているのは、とにかく楽しんでもらうこと。キャンプでも快適であること。そしてなにより、安全であること。関野さんのグレートジャーニーも、一般のお客さんが相手のトレッキングも、基本的に同じです。
── アウトドアでは、どんな音を聴いていますか?

渡部:山でも海でも、音は絶えず気にしています。風の変化を、聴いているんです。強くなってきたとか、治まってきたとか、そうした様子を通じて、天候の変化を早く知ることができる。そういうのは目じゃなくて、草や岩にあたる風の音として、耳から入ってくるんです。

── いのちの安全のための音、生存のための音、ですね。

渡部:鳥が急に鳴き止むのも、逆に高いところで鳴きはじめるのも、天気が変わる兆候です。風が強くなると、梢の上でじっとしていられないんですよ。カエルが鳴けば、本当に天気は崩れます。動物の鳴き声の変化で天気をよむというのは、本当にありますよ。

── 森の中にキャンプをはっていると、いろんな音が聴こえてきませんか?

渡部:夜は視覚が効かないので、そのぶん音に敏感になります。鹿の声や、様々な動物が動き回る音。音がしないのだけど、フクロウが飛んでいる気配だとか。アラスカで茂みから、ガサガサした音が聴こえたら、まず熊じゃないかと注意します。

── 山だと、どうでしょう?

渡部:冬山でテントの中にいる時は、外側にあたる雪の音を聴いています。こまかい雪がサーッとあたっていたり、ポツポツと大きなボタ雪があたっていたり。降っている量も、音でわかる。そう、雪崩も山で聴く音ですよね。

── 危ないですねえ。(^_^:)

渡部:歩いている足下で、雪が軋む音を立て始めたりして。山の別の場所からゴゴゴゴって雪崩の音が聴こえ始めたら、温度が上がって雪がゆるみだしたということだから、注意しないといけません。

── 海ではどうですか?

渡部:やはり波音を通じて、天候の変化を知ろうとしていますよね。あとヨットだと、帆がバサバサ鳴っている時は、風がちゃんと帆に入っていないということ。音でわかることって、多いです。

── おそらく、ヨットはすごく五感をつかう乗り物ですよね。

渡部:パラグライダーもそうですよ。自分を吊っているラインが風を切る音が、いつもヒューッと聴こえています。もちろん目も使います。

── 風って見えるんですか?

渡部:見えるんです(笑)。下の方の地面の草の動きや、梢の動きを見ながら飛んでいます。でも、視覚だけじゃあない。たとえば、まわりに暖かい空気を感じたら、そこに上昇気流が発生しているということ。そんな具合に、五感で乗るんですよ。トンビもその原理で、高いところへ上がっていく。

たとえばパラグライダーは、森の上空10〜20mくらいを飛ぶことも出来ます。そうすると、下から森の生き物達の音が、わんわん昇ってくる。森の中にいる時よりも、よく聴こえるんですよ。石垣島で森の上を飛んでいると、大コウモリの鳴き声がよく聴こえました。

── 宮崎駿の「風の谷のナウシカ」に、メーヴェという乗り物が出てきますよね。誰もが一度乗ってみたいだろうけど、お話を聞いていると、パラグライダーはすごくそれに近い気がしてきました!
ところで、二月のサウンドバムでは、渡部さんと一緒にアラスカへオーロラの音を、メキシコ・バハ半島へクジラの鳴き声を聴きに行くわけですが、クジラの鳴き声って、どんな風に聴こえるんですか?

渡部:鳴き声というよりも、歌です。シーカヤックで移動している最中、何度かクジラの歌を聴いたことがあります。海の中で響いている歌声が、カヤックの底を通じて上にあがってくるんですよ。

── ううう(絶句)。

渡部:歌をうたうのは、ザトウクジラです。バブルネット・フィーディングといって、何頭かで泡を出しながら浮上し、その泡の中に捕らえた小魚を食べるんですけど、この最中、リーダのクジラが歌うんです。

── それは、よく聴けるものですか?

渡部:何度か聴いたことがあるけど、いつもじゃない。今年の夏は、アラスカへ行ったけど聴けませんでした。海もすごく穏やかでないと、カヤックを漕ぎ出せないし。

── 今度のバハ半島の海は、入江になっていて穏やかですよね。

渡部:ええ。マグダレナベイに集まって来るのは、おもにコククジラ(Gray Whales)ですが、ザトウクジラもいます。クジラは、冬場はあまり食べないけど、また違った歌が聴けるかもしれませんね。そう、以前アラスカで、クジラの寝イビキを聴いたんですよ!
── 夜ですか?

渡部:静かな入江でキャンプをしている時です。沖合で寝ているクジラは、規則的なブローを鳴らしているんですが、その合間に寝イビキをかくんですよ。チューバが壊れたような、そんな音です。キャンプの裏の深い森の奥へ入っていった寝イビキの音が、3〜4秒遅れて、すごく深いエコーで戻ってくる。それはもうすごい音で、眠れないほどです(笑)。
(おわり)

※渡部純一郎さんと一緒に出かけた旅/第2回サウンドバム「アラスカ/フェアバンクス+メキシコ/バハ半島」のウェブレポートは、トップページからどうぞ。


渡部純一郎(わたべじゅんいちろう)
1959年東京生まれ ヒマラヤ、キリマンジャロなどでの山岳ガイドの他、近年はシーカヤックのガイドも。あらゆるアウトドア・アクティビティを楽しみつつ、その喜びを人々にもしっかり体験させてくれるガイドとして、優れた仕事を重ねている。関野吉晴氏の“グレートジャーニー”をはじめ、探検やエクスペディションのサポートも多い。

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