>Date: Wed, 23 Dec 1998

I N T E R V I E W : 音のある世界で
イルカの声・コミュニケーション
Vol. 5  山本 聡


──-山本さんは、イルカの何を研究しているんですか?

山本:んー。イルカの認知心理学です。

──-認知心理学っていうと、どう世界を認識しているか、とか、どんな具合にコミュニケーションを取っているかっていう話ですか?



山本:大学で最初に手がけようとしたのは、イルカの音声分析です。たとえば人間の声って、言葉の内容以上に、いろんなことを伝え合っているでしょ? 抑揚だとか調子だとか、そういうところで。声っていう「音」が、コミュニケーションの中でどう機能しているのか。そこに興味があったんです。

──-イルカは「音」でコミュニケーションしているんですか? たとえばこの音(下田の音を録音したものを聴いてもらう)、「キューイ」とか「ピー」とか鳴いているけど、これで何か話し合っているんでしょうか?

山本:んー。イルカがそれでコミュニケーションしている可能性はあるけど、じつは、まだ実証されていないんですよ。イルカに限らず、人間以外の動物に言葉があるのかどうかも、まだ誰も知らないんです。

──-でも、鳥が求愛行為として「鳴く」とか。そういうのは、常識として頭に入ってしまっているんですけど。

山本:「言葉」についての、定義の問題ですね。難しい話になっちゃうけど、要は人間のケースに見られるような規則性が、実証されていないんですよ。とはいえ、蜂は八の字のダンスで、確実に何かを伝えている。僕は、“コミュニケーションは言葉なしで成立するけど、言葉はコミュニケーションなしでは成立しない”、そんなふうに考えています。

──-言葉じゃなくて、音(や声)でのコミュニケーションって、人間にもたくさんありますよね。ちなみに、イルカはどんな音を出しているんですか?



山本:大きく2種類あってね。(*下田の音を聴きながら)……ここでも聴こえているけど、「ジジジジジ」「ギーーーー」っていうような音。これはエコロケーションっていって、イルカがソナーみたいに音波を出しながら、回りを感知しているんです。帯域の広いパルス音で、高いところだと150Khzくらいまで出ている。(*むろんReal Playerでは聴こえないし、人間にも聴こえません ^_^:)

 もうひとつは、「キューイ、キューイ」とか「ピー」といった音。これは、ホイッスルとか、バークって言われてます。エコロケーションに比べると帯域も狭く、音も低い。人間からしてみれば、十分に高いんですけどね(笑)。

 昔、コールドウェル夫妻っていう草分けの研究者が、バンドウイルカは、一頭一頭特徴の異なる声を持っているんじゃないか、っていう説を提唱したんです。今ではこの音は、“シグネイチャー・ホイッスル”って呼ばれていて、イルカたちが自分の名前代わりに使っているんじゃないか、と言われている。確証はまだないんだけど、ピーター・タイアック博士という研究者を中心に、データが少しづつ集まっている状況です。
──-僕らには、ぜんぶ同じ声に聴こえてしまう。たまに、短波ラジオをチューニングするときの、「キュ〜〜イ〜〜ッ」ってうねるような音が聴こえますね。

山本:ホイッスルやバークの一部ですね。こういう音が、どういうコミュニケーションを担っているのかは、まだわからないんですよ。

 ジョン・フォード博士という研究者たちは、シャチには家族単位で声に訛りがある、とも言っている。バンドウイルカとオキゴンドウ(*どちらも下田のマイクの回りを泳いでいる)では、出す音質もだいぶ違うしね。個体でなく、種の識別にこうした音を使っている可能性もあるんです。

──-ああいう音は、どこから出ているんですか?

山本:エコロケーションの場合、イルカには声帯がないから、たぶん鼻の中で空気を共鳴させて、音をつくっているんです。それを、おでこにある“メロン体”に集めて、そこから音波としてソナーみたいに出しているのね。そして、戻ってきた音を、下顎で聴いているんですよ。

──-えっ! じゃあ、ホイッスルとかも、顎で聴いているんですか?

山本:それは顎じゃなくて、たぶん耳のまわりから、なんとなく染み込んでいるんじゃないかと思う。耳たぶはないけど、耳の穴はあります。

──-彼らは、どんなサイクルで一日を生きているのでしょう?

山本:種類が違うと、食事の時間が違うんだよね。だからその生活サイクルは、一概にいえないんです。

──-でも、夜になったら寝るとか、大きなところでは?

山本:んー。イルカはね、完全な熟睡ってしないんですよ。呼吸が止まっちゃうでしょ。360度無防備な状態だしね。彼らが眠っているときは、右脳と左脳が交代で、順番に眠ているんです。いわゆるレム睡眠がないので、どうやら僕たちのような夢は見ていないらしい。(*ちなみに、今回マイクのまわりを泳いでいるイルカ達には、一日3回11時・13時・15時に、ショーの仕事がある。彼らが仕事と思っているかどうかわからないけど、一応これが毎日あるサイクル。来館者がウェットスーツを借りて、一緒に泳いでいる時間もあります/ニシ)

──-実際、夜通し聴いていると、かなり頻繁にイルカの音が聴こえています。あの音は海中だと、どれくらいの範囲にわたって聴こえているんでしょう?



山本:イルカはクジラという種の一部なんだけど、大きく歯クジラと髭クジラに分けることができます。歯クジラは、100とか150Khzといった高い音の世界で生きている。髭クジラは、10hzとか15hzといった低い音の世界に生きています。どちらも、人間にはほとんど聴こえない世界。

 低い音は、遠くまでとどく性質があります。ときには、100Km以上。NHKスペシャルの「海」のシリーズで、遠く離れたクジラが互いに鳴き声でコミュニケーションしているんじゃないか、っていうのを見た人もいるでしょう? でも、下田にいるイルカたちの出す高い音は、あまり遠くまではとどかない。せいぜい数百メートルくらいかなあ。

──-下田の海中水族館は外洋に繋がっているので、子イルカが生まれたときに、外洋の野生のイルカがそばに遊びに来ていた、っていう噂があるんです。サーファー間の噂で、あてになりませんけど。

山本:はー、それはどうかなー(笑)。でも、外洋のイルカが寄ってくるのは、そんなに珍しいことじゃないでしょうね。そもそも、海岸沿いの浅いところには、普通に生息していたはずだから。

──-そもそも山本さんが、イルカ研究に至ったきっかけって、何ですか?

山本:そりゃあ、僕の世代なら誰もが「わんぱくフリッパー」の洗礼を受けているわけです! あと「イルカの日」っていう映画も中高生の頃に見たね。大学へ進むつもりはなかったんだけど、家族会議がありまして(笑)、大学へは行けと。学びたいことがほとんどなかったんだけど、イルカならやってみたいなって。あと世の中には、後に何も残らないような仕事が多いけど、科学なら後から来る人たちに必ず何か残せるでしょ。そう思って。

──-でも、当時はイルカに関われる大学なんて、なかったのでは?

山本:とくに、“イルカの心理学”なんてねえ。どこで何すればいいのか、サッパリわからなかった。とりあえず日本の大学で出来るところまでやってから、海外に場所を探したです。でも、生物学的な研究はたくさんあっても、心理学的な研究はほとんどなくてね。そのうち、ハワイ大学の海洋哺乳類研究所が、イルカの心理学を研究してるという話を耳にして、そこへ行ったわけです。

 そこでは、まずイルカのトレーナーの研修から学ぶんですよ。研究以前に、イルカとの付き合い方や健康管理についての経験が必要ですからね。ヘッドトレーナーの体験もしたっけ。トレーナーとしてOK、という判断がおりると、研究のマネージメントをしながら順番を待って、自分の研究に入っていくんです。

 ハワイには、結局7年くらいいたんだけど、その後一度、沖縄でイルカのトレーナーの指導をしてね。今は、淡島マリンパークに来てから1年半が経って、若い人たちも、認知心理学に基づいたトレーニングをよく理解して成長してきたし、ようやく本格的な研究が始められるかな、ってところです。

──-アースウオッチ・ジャパンが、山本さんの研究をサポートしていますよね?



山本:ええ、アースウオッチでの活動は、これからもつづけます。
(*アースウオッチは、現場の研究者たちにお金だけでなくボランティア、つまり“お手伝い”も提供しながら、参加者が研究現場に直接接していくためのプログラム。各研究現場と人々の間を媒介する、新しい類のエコ・ツーリズムとも言える。専門的な知識がまったくない人でも、アースウオッチを通じて、世界各地の研究現場に参加可能。そこいらの観光ツアーパンフよりはるかにバラエティに富んだメニューを読んでいると、今すぐ行ってみたくなる。http://www.earthwatch-japan.gr.jp/を参照)

 イルカの研究を手伝ってもらいながら、一般の人が、イメージとしてのイルカじゃなくて、実際にイルカたちに触れていく機会を提供していきたい。“ご飯をあげる”っていうような、すごく基本的なところからね。

──-参加者には、女性が多いのでは?

山本:うん。でもほんとうは、男の人たちに来てほしいんだなあ! いや、男の方が好きというわけではなく(笑)、大工仕事であるとか、手伝ってほしい肉体労働が結構あるんです。あと、コンピュータのプログラミングやエンジニアリング。オーディオの取り扱いに長けている人、数学に強い人、映像の編集ができる人。なんらかの機材の取り扱いができるとか。こうした研究に、専門家の意見はとっても大切です。自分が何人もいれば出来ちゃう、っていうものじゃないんだ。

──-アースウオッチのタームは、数日間の短いものだし、このメールマガジンの読者には、男性で、しかも何か一芸ありそうな方が多いから、山本さんのイルカ研究への参加に興味を持つ人もいるかもしれません。実際、サウンドエクスプローラのシステムデザイナー・O氏は、すでに強く興味を持っているはずです。:-)

山本:これからも、淡島でつづけます。インフォメーションは、アースウオッチ・ジャパンのサイトに出ているので、ぜひアクセスしてください。くり返し、男性を求めます(笑)。


山本 聡(やまもと さとし)
1961年生まれ。国内の大学で心理学を学んだ後、ハワイの研究機関でイルカを対象とした認知心理学に従事。97年4月より静岡県・淡島マリンパークの海生哺乳類飼育顧問。アースウオッチ・ジャパンの国内プロジェクトのひとつとして「イルカの認知能力の調査」を、参加した人々と一緒に行なっている。

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