Date: Wed, 23 Dec 1998

I N T E R V I E W : 音のある世界で
バリ島の一夜
Vol. 4  まる姉さん


──-ひさしぶりですねえ(半年ぶり)。最近は、なにしてるの?

まる姉:最近は、踊りまくってます(笑)。

──-踊ってるって? クラブとかで?

まる姉:インドネシアのバリ島で。今は、もうとにかくバリ舞踏に夢中なの。年に1回は、バリにも行ってるんです。

──-ガムラン*の楽団をバックにして踊るの?



まる姉:うん、東京ではそんなチャンスがあって。カセットテープとはやっぱり違う。楽団が生の音を奏でる前で踊っていると、カラダの皮膚が動き出すような感じで、音が響いてくるの。たとえば、ゴン(ドラのようなもの)の低い音は腹が、高めのウガル(主旋律を奏でる青銅の鍵盤打楽器)の音は、胸や肩が感じるんです。そんなふうに、カラダ全体で響きを感じながら踊るの。(*ガムラン=バリ島で聴ける音楽。15種類ほどの楽器で構成される楽団が演奏する。竹笛(スリン)や弦楽器(ルバブ)以外は、残響音の長い打楽器で、さらに一部の楽器は調律を微妙にずらしているため、なんともいえない音のうねりを醸し出す)
──-演奏は即興なの?

まる姉:一部には即興の要素があったりといろいろだけど、演奏する側は、常に踊り手の様子を見ながら演奏しているの。だからカラダで感じるリアル感が、テープとはぜんぜん違って。音に耳を一所懸命集中させないと踊れないんだけど、一度ノリ始めると、もうすっごく気持ちいいんです!

ガムランの楽器ってね、ガムラン専門の鍛冶職人さんたちがつくっているんだけど、楽団長と彼らで調律するの。だから楽団ごとに調律の調子も微妙に違って、楽団ごとに独自の音階を持っているんです。

──-へー!

まる姉:その調律の方法がまたおもしろくって! 鍛冶職人さんと楽団長さんが口伝えで、何日も何週間もかけて調律していくの。

──-えっ! 言葉で調律するの?

まる姉:うん。たとえば、「遠くの海のほうから聞こえてくる、波のような響きにしてくれ」とか、「ヤシの葉が、こうグググっと揺れていくときの響き方にしよう」だとか。「夜明けに、ゆっくり花が咲く音みたいな」とか(笑)。自然を表現する言葉でイメージを交わしながら、時間をかけて徹底的に調音していくの。だから、機械でやるよりも、すごいチューニングをしてるんじゃないかなって思う。

──-音の感受性が高解像なんだ。日本人が、"色"にものすごく細かい名前を付けていたり、いろんな"雨"の名前を使い分けるのと似ているかも。

まる姉:バリに行ってると、ほんと! 音にしても匂いにしても、カラダで感じる感覚がブワーって広がって、なにかこう聴こえない音まで聴こえるような感じがしてくるのよねー。

──-そんなふうに感じるのは、バリ島だけ?



まる姉:私は自然の音が大好きだから、自然が元気なとこへ行けば、バリじゃなくても感覚は広がっちゃう。日本にもそういう場所はたくさんあるけど、バリは、その強さがまるで違うんですよー。

よくみんなが言うのは、ガルーダの飛行機に乗ってバリ島の空港に降りて、ドアが空いてタラップを降りていくでしょ。降りている途中で、ブワーって匂いが、独特の花の濃密な匂いとか海の匂いとか、市場のものの腐った匂いとか、なんかいろんな匂いが混じった独特な匂いが、ブワーンって匂ってくるの。そして、「バリに来たーっ!」て思うんです(笑)。

こないだ行ったときは、日本へ帰る前の晩、いろいろと複雑な気持ちで、寝れなくなちゃったの。それで部屋にいるのがつまらなくって、外の空気が吸いたくなってね。テラスに出て、ボーっとしていたの。

──-どんな夜?

まる姉:すごい月明かりの晩。月や星がそのまま海に映っていて、椰子の木立が真っ黒なシルエットでひろがっていて……。そんな世界で、フワーっとトロケてたわけですよ(笑)。そしたら、まわりのいろんな「音」が聞こえてきてね。時間とともに、どんどん変わっていくんだけど、音の移ろいがあまりに気持ちよくて。わたしそのまま、朝までずっと音を聴いていたんです。

それはただ単に、遠くの田んぼで虫が「リンリンリンリン」って鳴いている音だったり。ごくたまに通り過ぎていく車の音だったり。ヤシの葉が風に揺れる音だとか。テラスの前には、ちょうど心地良い庭があってね。その池でポチャンと魚がはねる音がとどいたり。その向こうには小川が流れているんだけど、その「ザワザワザワー」っていうせせらぎの音も、絶えず聞こえていて……。

それから、何の音かわからないんだけど、拍子木の「コーンコーン」っていうような音。バリでは普段からよく耳にするんだけど、なんでこんな夜更けの時間に聴こえてくるのかな、って感じで。誰もが寝静まっている時間なのに、「えっ、幻聴?」みたいな音が、ほかにもときどき聴こえてくるのよね。決して嫌な印象ではなくて、音としては気持ちのいい。何の音かまるで判断つかないけど、擬態音では表せないような音がねえ……。

──-ちょっとこわいかも(^_^:)。

まる姉:で、だんだん夜が明けてくると、ニワトリですよ。実はニワトリくんは、2時くらいから、もう元気なんです(笑)。ニワトリはバリ語で「ワクトゥ」っていうらしいんだけど、「時間」っていう意味なんだって。ってバリのお父さんにジョークを教えられたのかもしれないけど! そのニワトリがたまに鳴いているなあって思っていると、そのうち小鳥達も鳴きはじめるんです。

──-何時くらいから?



まる姉:4時くらいから。そうすると、もうさわやかな朝のはじまり! 人が起きてくる「ゴソゴソ」っていう音が、聴こえはじめるんですよ。そうすると、ニワトリが「今度こそ待ってましたーっ!」て感じで。「ほーらきた!ほーら朝だよ!」って、もうすごい音で鳴き始めるのね(笑)。一軒ごとに何匹も飼っているから、それが一斉に鳴きはじめると、ほんとうにスゴクって!

そのうち、外の道を車がどんどん行き来しはじめて。たぶん市場でも、「ガーガー」がなり声があがってるんだろうな、って勝手に想像してみたり。

で、すっかり明るくなってくると、こんどは、いろんなところから庭を掃除する音が聞こえてくるの。バリの人たちは、なんでか知らないけど、ほんとにしょっちゅう庭掃除をしてる(笑)。朝には必ずそういう音が聞こえてきて。女の人がみんなの食事をつくったり、家のなかを回ってお祈りをしていたり。そういう音が聞こえてきたりして、人の話声がして、子供たちが学校に出かけていく音がしたり……。そんな時間を、朝まで通しでボーっと楽しんでしまいました。

わたしはその日、夜にバリを発つ予定で。日中は、もーさんざん遊んで、夜の踊りもちゃんと見て。空港まで行くチャーター便を知り合いに頼んで。でも、空港に向かうその車の中で、帰るのがだんだん嫌になってきて。「やっぱりやだねー」「いまからウブドゥへ戻りましょうか?」なんて言ってるのに、まるで相手にされなくて(笑)。無理矢理飛行機に積み込まれて、このように帰ってまいりました。

──-いや、素敵な話です。生き生きとしているね。



まる姉:そんなふうになれる場所なんですよ。人が生き生きとなれる。バリ島は、そういう場所なんだと思います。

──-すごくいいなあ。旅に出たくなるね!


まる姉
1969年、東京生まれ。97年より、サウンドエクスプローラの「クイズの部屋」のお姉さんとして活躍。部屋に集まった人たちから、愛称をいただく。現在同コーナーはお休み中。バリ舞踏に夢中。人生の基本は、食う寝る遊ぶ。

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